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背後から聞き覚えのある声がして関谷は振り向いた。印象的なその声を覚えている。突然のことに驚いて目を眇める関谷と目が合うと、相手は弾けるような笑みを浮かべ手を振った。
「よかったあ。やっぱりあのときのお兄さんやんなあ? カイロをくれた」
「……はい」
二度と会うことはないと思っていた人と再び言葉を交わしていることに、不思議な気持ちに陥る。
関谷が返事をすると、相手は一瞬ほっとした表情を浮かべ、それから再び顔をくしゃくしゃにして笑った。
ロータリーにたたずんでいた彼だ。今日はこの間のように落ち込んだ様子もない。少しキツそうに見える顔は、笑うと嘘みたいに人懐こくなり、関谷は目が離せなくなった。
「今仕事終わりですか?」
「えっ……あ、はい。そうです」
雰囲気に飲み込まれてしまったのか、気付くと立ち話もなんだからと、近くのバールに入って話をすることになっていた。
陽太と名乗った彼は、普段あまりなじみのない関西弁に集中して話を聞いている関谷に気付いたのか、自然に話すスピードを落とした。ゆっくり耳を傾けると、彼の話し方は声と同じくとても心地よかった。
思えばはじめから、惹かれていたのかもしれない。だからこそ、自分の世界とまるで接点のなさそうな陽太に声をかけずにはいられなかったのだと。
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