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「関谷ぁ、疲れたよー。退屈で死ぬかと思った」
取引先との会食を終えて先方を見送ると、すかさず専務の瀧川がぼやいた。
「……そういうの、冗談でもやめていただけますか。社長の代理だったのですから」
長身で引き締まった身体。
はやりのブランドなどではなく、親の代からつきあいのある、老舗テーラーであつらえた仕立てのよいスーツがよく似合っている。
黙っていればかなりのいい男なのに、子供のように駄々をこねている瀧川にあきれ果て、関谷拓斗はため息をつく。
「なんか全然食った気しねーなぁ。関谷、ふたりで仕切り直す?」
「いくらご自分のお身体に自信があっても、そんなに食べたら腹がたるんで、見られたもんじゃなくなりますよ」
「やだもう! 見たこともないくせに。だけど興味があるなら見せ……」
「結構です!」
いつもの調子でからかってくる瀧川をぴしりと突っぱねる。
先方に対する失礼な物言いはもちろん本気などではなく、実は終始緊張していた秘書である関谷を気にかけてのことだとはわかっているが、不器用な関谷には素直に感謝の気持ちを表すことも、軽く笑って流すこともできない。
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