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八つ当たり気味に文句をぶつけて、少しだけ気の晴れたロルフは、少女の謝罪を受け入れる事なく背を向けた。
だが、ぽややんとした印象が重なる少女は、ロルフの父親とは少々異なる性格をしていた。
「ご親切に助言をしてくれて、どうもありがとう。私、あなたをなんとお呼びすればよろしいかしら」
あれだけ言われても皮肉を感じないほどおめでたい頭しかないのかと呆れ返ったロルフは、まったく相手をしないで歩き出した。
「じゃあ、名無しの権兵衛さん。私からも一言忠告してあげるわね。たいした怪我でもないのに謝罪を受け入れる懐も持ち合わせていない人って、いくら格好良くても残念でみっともないわよ」
「な!?」
予想外の反撃に振り向けば、憎らしいくらいしてやったりな笑顔を浮かべていた。
「あ。あと、もうすぐ雨が降ってくるから、風邪を引かないようにね」
少女はこんな言葉を別れの挨拶にして、素朴な外見とかけ離れた強烈な反撃を繰り出して反対方向へと歩いて行った。
あまりの出来事に、ロルフはくるくるご機嫌に回されている赤い傘を呆然と見送ってしまった。
「なんだ、あいつは」
人を見分ける目に自信のあったロルフにとって、これほど印象と実体に開きのある人物は初めてだった。
もう、すでに姿の見えなくなった傘を追っていると、ぽつりと頬に当たる冷たいものに気付いて我に返る。
次に歩き出した時には、港ではなく、商団本部のある通りに足先が向いていた。
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