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セレスティアは体が震える恐ろしさを味わいながらも、泣き出してしまわないよう両手を強く握りしめた。
「一体、どんな用件があって、こんなところまで押しかけて来たのよ」
再び問いつめると、今度は返事があった。
「確認をしに」
全く意味がわからなかった。
「別れの言葉は告げたはずよ。今後、私の前に現れないで。迷惑なのよ」
声低く、奥底から怒っている事を全身で訴えてみせる。
けれど、ロルフは少しも意に介さないで何かを無造作に放り投げてきた。
「何?」
「ブレスレットが気に入らなかったみたいだから、代わりを持ってきた」
思わず受け取ってしまった手のひらを見れば、華奢な白い貝殻のイヤリングが剥き出しの状態で乗っかっている。
「こんな物いらないわよ」
「今度は投げ返すなよ。それ、母親が残してくれた唯一の品なんだ」
「え? そんな物、尚更もらえないわ」
「残念。それ、呪いがかけてあるから返品不可だ」
慌てふためき困惑しているセレスティアをとっくりと眺める仕掛けた側のロルフは、冗談めかす余裕があるほど愉しげだ。
「何よ、それ。もう、いい加減にして。あなたの事なんか全部すっかり忘れたいのよ!!」
「だからだよ」
「……え?」
ロルフのささやかな呟きは、セレスティアには幻聴のように響いた。
「ロマンスを成就させるのに必要不可欠な茨の道を俺は行く。ヒロインはただ信じていればいい」
発言を真っ直ぐにはとても受け止められなくて、ロルフの真意がどこにあるのか探り当てようと見つめ返してみるのだけど、セレスティアが確信を得る前にあっさり出ていってしまったのでわからず仕舞いとなった。
自分の鼓動だけが聞こえる静まり返った部屋には、意味のないたくさんの恋文と同じ香りが残されていて、セレスティアは腰がくだけたようにその場にしゃがみ込んだ。
「ずるい人」
セレスティアの手には呪いのイヤリングが、耳にはロマンスの成就という呪縛の言葉が茨みたいに絡みついて離れなくなっていた。
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