ソメイヨシノに恋をしました

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-28歳の春- 最後にソメイヨシノに会ってから10年の歳月が過ぎていた。 僕は何人かの女性と付き合い、そして、どれも長くは続かなかった。結局、胸の奥の一番大事な場所は、ソメイヨシノのために空けたままだった。 春の気配が少しずつ増していっている山の中を歩く。日差しは温かいが、風はまだ冷たかった。 山の中腹まで来て、桜の木に近付いていった時、僕は愕然とした。枝や幹の所々が枯れてボロボロになっている。 「何があったんだ!?」 元から白かった彼女の肌は、今やほとんど生気を失い、まるで蝋人形のような姿になっている。 しかし、彼女は初めて出会った時と変わらない笑顔を浮かべ、僕を迎えてくれた。 「病気よ。来年の春まではもたないでしょうね」 目の前の世界から、急速に色が失われていくような気がした。
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