第1章

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オレが10個目の石を手に取ろうとしたところで、ゴロゴロと雷鳴のような轟音が円筒形の広間を満たす。追い討ちをかけるように、上の方から岩石が落下する衝撃が重なり、やがて天井からガラガラと大きな岩の塊が水の中に派手に飛び込んで、大きな水しぶきを上げる。 「やった!」と、アンデがはしゃぐ。 天井に貼り付いていた石が次々へと落下し、凄まじい砂埃が辺りを真っ白に包み込む。 オレとアンデは洞窟に引き込み、落盤が収まるのをじっと待つ。ただよっていた砂埃が納まり、次第に視界が晴れてくる。天井を見上げれば、岩盤ががっぽりとえぐり取られ、巨大な吹き抜けのような空間ができている。 「これなら渡れそうだよ」 アンデは、水面が上昇し、向こう岸が5~60センチ程度まで盛り上がっているのを指差す。大きな岩が地底湖に沈み、その体積の分だけ水面を押し上げたようだ。 「ルードが泳げないなら、私が連れてってあげる。ほら」 アンデは、オレの手を引き、水の方へと誘う。 「ま、待って」 オレの抵抗など物ともせず、オレの体は崖から宙に舞い、ドボンと派手な音を立てて、水の中に落ちる。アンデは強い力でオレの手を引き、水面から上に顔が出るところまで引き寄せる。すぐにアンデの右腕が、オレの首の後ろを通って右肩を掴み、彼女は左手だけで器用に泳ぎ始める。オレは、アンデの動きの邪魔にならないように、ただじっとしている。 「ねえ」と、アンデが泳ぎながら、オレに話しかける。オレには、返事をする余裕が無く、「うう」とただうなり声を上げて答える。 「ルードって賢いね。私じゃ、あんなこと思いつかないよ」 落盤を起こして、水面を押し上げたアイデアを褒めてくれてるようだが、実は考えてこの結果を生み出したわけじゃない。ただ、オレは夢中になっていただけだ。いろいろとアンデに伝えたかったが、うまく言葉になりそうにない。 アンデは、向こう岸に泳ぎ着くと、オレを岩渕にしがみつかせ、まずは自分だけが崖の上にはい上がった。続いて、オレに向けて両手を伸ばし、オレの両脇に手を掛けて、そのまま持ち上げようとする。これで引き上げるのは無理だと思ったが、アンデはヒョイとオレを体ごと崖の上に引き上げる。 「ほら、渡れたよ」 アンデが得意げに鼻の下を人差指でこする。オレは、ただ口を開け、彼女の顔を見つめる。
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