第1章

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「ラウンド7には、池があったんだ。私、毎日泳いでたんだよ」 「だから、そんなに泳ぎが上手なんだ」 「毎日泳いでればね、誰だって上手になるよ」 アンデは照れくさそうに笑い、洞窟の奥の方を指差す。 洞窟に入ると、今度はオレが主導で、アンデの方がオレの腕にしがみ付き、離れまいと一緒になってついてくる。 右曲がり、左曲がりと直角に曲がる岩の通路を進んでいくと、だだっ広い四角の空間にオレたちは躍り出る。先ほどの落盤の空間と同じ程度の広さで、今度は四角く空間が掘り抜かれている。またもや、天井からはガツンと岩石が落下するときの轟音が響いてくる。上方のラウンドの住人たちが、野郎相手に暴れているのだろう。ラウンド1で、野郎が落とした岩石でぺしゃんこに潰れたプーカ族の友人の姿が頭に浮かぶ。オレは、頭を振って、その記憶を消し去ろうと試みる。 「ここの天井は崩れ落ちそうにないね」と、アンデの言葉が耳に入り、オレの意識は戻る。 四角い広間を先に進んだ先は崖となっており、下を見下ろせば、10数メートルほど下に谷底が見える。岸壁には、でっぱりがほとんど無い、ツルツルの壁で、ロープでもない限り、崖の下に降りる手段は無い。これは、どうみても行き止まりにしか見えない状況だ。 「あそこを見て」 崖っぷちにはいつくばるような姿勢でいるアンデが、谷底に向けて指を差す。彼女の指の先には人がくぐれそうな洞窟があり、この先の秘密に足を踏み出せそうである。 「何とか、ここを降りていきたいね」 「ふむ」と、オレは唇に人差指を当てる。この仕草をすると、オレの場合は冷静に頭が働く。 「この広さなら」 オレは、ベルトポーチにしまっていた『イワウリ』の種を何粒か掴み、ゴツゴツと岩だらけの地面にまく。『イワウリ』は、種に電流を流すと、発芽する性質がある。電流は、静電気を利用すれば、割と高圧な発電を起こすことができる。オレは、着ていた赤色の皮ジャケットを脱ぎ、岩壁にこすり付ける。皮革には静電気がたまりやすいが、先ほどアンデと水の中に落ちたときに、帯電していた静電気は流れてしまったはずだ。もう一度、電気をためなくてはならない。 辛抱強く布をこすり付けていると、白い蒸気が出始める。これが乾ききるまで続ける。アンデは眼をパチパチさせながら、オレのやることを不思議そうに眺めている。
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