第1章

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10分程度こすって、布が乾いてきたところで、『イワウリ』の種をまいた辺りにジャケットをフワリと落とす。すると、バチンと火花が散るような音がして、これまで沈黙を維持していた『イワウリ』の種から、ザワザワとはしゃぐような声が聞こえ始める。 次に、オレが右手の人差指と親指でパチリと鳴らすと、種の殻にヒビが入り、芽が出てくる。芽はグイグイと茎を延ばし、小さな赤子の手のような葉を次々と広げていく。そして、地面には強固な根が伸びて、次々と足場を固めていった。 「何?何が起きてるの?」と、アンデが驚きの声を上げる。初めて見る光景にうろたえているようだ。 「『イワウリ』の種をまいたんだ。こいつは、成長が早いからね」 「こんなに早く芽が伸びるんだ」 「驚くのはまだだよ。キミの炎の力を借りれば、もっと面白いことが起きるよ」 「え?炎?」 オレは、長く伸びた茎を何本か切って束ね、地面に敷いて、そこらに落ちていた石を持ち、力を込めて茎を叩いて、水分をしぼり出す。ジワジワと水分がにじみ出てきて地面を湿らすので、場所を変えて同じことを繰り返す。やがて茎はカサカサに干からびたようになる。用があるのは汁ではなく、この干からびた茎の方である。乾燥した『イワウリ』の茎をクルクルと巻き取り、丸い球のようにする。さらに、腰に差していたナイフの刃先で、その球を突き刺し、アンデの眼の前に差し出す。 「これを燃やしてほしいんだ」 「別にいいけど、どうなるの?」 「すぐにわかるよ」 アンデはスウッと息を吸い込み、ナイフの先の球が吹き飛ばない程度に、炎のブレスを吹き付ける。乾いた茎の球は、メラメラと燃え上がる。オレはナイフを振って、燃える茎の球を崖下の谷底に落とす。 「あれは小さな太陽だよ」 「太陽…」と、アンデは息を呑む。『イワウリ』のツルのざわめきはいっそう激しくなり、あっという間に崖を下って、谷底まで到達する。ところどころに、『イワウリ』の丸い果実もゴロゴロと出来上がっている。 「炎を使って実らせた『イワウリ』の果実は甘いんだ」 「プーカ族は、『イワウリ』づくりの名人ね」と、アンデは興奮気味に言う。 オレは、保存食用と次の種用に拳くらいの大きさの果実をいくつか収穫し、崖のところまで行く。『イワウリ』のツルは岩壁に深く根を張っているので、ちょっとやそっとでは引き抜けない。頑丈なはしごができたというわけだ。
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