第1章

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「彼女もね、結局は水を飲んでたんだよ。ここのことなんか知ってるはずがない。じゃ、なぜ『ヘルメット・アンダーワールド』の存在を知っていたか。その理由はね、ボクが教えたからなんだ」 野郎は、右手に持つモリ銃を上に向け、左手の人差指の平でモリの刃先を撫でながら言う。 「本当にいい娘だね。ボクの指示したとおりに動いてくれた」 「指示?」 オレは、アンデと野郎の顔を交互に見比べる。 「ここを突き止めるためさ。何せ、バカな地中生物どもは全部忘れてしまうようにできてるからね。だから手を打ったんだよ。もし本当にあるとしたら、当人たちに探させればいいかなと思ってね」 野郎は、そこでアンデの方をチラリと見る。 「『ヘルメット・アンダーワールド』なんて名称もボクが考えたんだよ。自分で言うのもなんだけど、ファンタスティックだろう?まあ、本来ならバカな地中生物なんだから『巣窟』くらいがふさわしいんだろうけど」 オレは、記憶を手繰り寄せた。オレが、『ラウンド1』で最後の一人になって、地上に逃げようとした時のこと。 「『ラウンド1』でオマエの声を聞いた時、誰かと話してるような感じだった。あの時、話をしていた相手というのは…」 オレは、アンデの方を見る。アンデは何も語ろうとせず、憂いに満ちた目でオレを見つめ返す。 「ああ」と、野郎がポンッと手を打つ。 「『ラウンド1』に彼女を呼び出した時のことを言ってるんだな」 野郎は愉快そうに笑い、アンデに近付いていく。アンデは立ちすくみ、じっと動かずにいる。野郎は彼女の隣に立ち、首の後ろから腕を回して、反対側の肩に手のひらをのせる。 「仲間をボクに全滅させられて、一人だけになったこの娘が命乞いをしてきたんだよ。ボクはね、指示どおりにしたら命は助けてやると言ったんだ。ボクの指示は、生き残ったプーカをそそのかして『ヘルメット・アンダーワールド』を探させることだったんだよ。そうか。キミは、地中に隠れてて、ボクの声を聞いてたんだね。なるほど。でも、結果として、ボクにとって絶好のタイミングで聞かれてたということになるね。だって、その後に、キミと彼女は一緒になって、何の疑いも持たずに『ヘルメット・アンダーワールド』を目指す冒険を始めることになったんだから」 野郎の手がアンデを引き寄せる。アンデはなす術もなく、野郎の肩に頬を押し当てる姿勢となる。
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