第1章

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「プーカが一匹残ってるんだ」 地上に出る寸前で、あの野郎が話す声を聞いたときは、オレの心臓に冷水が流れ込んでくるような気分だった。仲間たちは全員やられた。オレが最後の一人だ。命からがら逃げてきて、地上まであともう少しというところで、野郎に待ち伏せされていたという有様だ。仲間にモリを撃ち込んできた時の狂気じみたあの笑い声と同じ声だ。野郎に間違いない。 「おそらく、この辺りに出てくるはずだ。ボクは、それを待ち伏せしてる」 野郎は、誰かにそう話しかけている。アイツは一人きりだと思っていたが、いったい誰に話しかけているのだろうか。 とにかく、このまま地上に出たら、みすみすやられにいくだけだ。あのどでかいモリが腹に突き刺さり、空気を送り込まれて、オレの体は風船のように膨らみ、やがて破裂(プクプクポン)する。三人いた仲間の内、二人はそれでやられた。もう一人は、岩の下敷きにされた。オレ一人だけが生き残った。あの野郎のブーツが踏みしめる地面から皮一枚のところで、オレはゴーグルの中で縮こまり、更に地上の話し声に耳を傾ける。 「ボクは、アイツを逃さない。必ずこのモリで仕留めてやるんだ」 野郎の低い声がオレのはらわたに響いてくる。ここは逃げるしかない。野郎がオレの存在に気付き、モリを撃ちこんでくる前に逃げ出してやる。地上に逃げられないのなら、地下に逃げるだけだ。オレは、そっと野郎の足元から離れ、地下の奥深くへと移動し始めた。 オレはプーカ族のルード。プーカ族は生まれてこの方ずっと地中に暮らしているが、オレ達には穴を掘る能力は無い。 では、どうやって地中を移動しているのかって? プーカ族を特徴付けている黄色いゴーグルの中に、体を折り畳むことができる。この姿になると地中を擦り抜けることができ、土を掘ることなく、自由に移動することができるというわけだ。オレたちは『すり抜けモード』と呼んでいる。先ほど、地上付近まで移動し、野郎の声を盗み聞きしていた時も、この『すり抜けモード』だったわけだ。 ただ、変身すると移動速度が遅く、体力の消耗が激しい。あまり長くはいられないのが難点だ。
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