第1章

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野郎の手が動く。オレの腹は破裂寸前まで膨らむ。結局、オレは何をやってたんだろう。冒険家を気取って、あげくの果ては、先祖代々まもり続けてきた生存の仕組を台無しにしてしまった。 オレのせいだ。 オレのせいだ… 「ルード」 ふいに、オレの耳にアンデの声が飛び込んでくる。彼女は膨らんだ状態から回復し、立ち上がっている。 「少しだけ。頭を左にずらしてくれるかな」 オレは、意識がもうろうとする中で、彼女の言うとおりにしようと努力した。本当に彼女の望んだとおりになったのかわからないが、右の耳たぶの辺りに、かすかに炎の熱を感じたような気がした。 「あちい!」 野郎の悲鳴がはっきりと聞こえた。膨らみが一段階回復し、周りの状況が少し見えるようになった。野郎は火だるまになって、床を転げまわっている。付着した『イワウリ』の燃焼力も加わり、野郎の体中が激しく燃えている。そこへ、アンデが二度目のブレスを容赦なく浴びせる。 「ひいい!」 野郎は立ち上がり、『転送機』への通路へ逃げ込む。オレは、瞬時に野郎の目的を悟る。水汲み場があった。野郎は、あそこで消火するつもりだ。オレの膨らみが治まり、身動きが取れるようになるには、もう少し時間が必要だ。 アンデが野郎を追いかける。どうやら、彼女も水汲み場の存在に気付いたようだ。だが、ここで不用意に野郎を追いかけるのはヤバい。消火が済めば、すぐに野郎のモリで反撃される危険がある。 オレは空気がしぼむのをもどかしく感じながら、身動きが取れるのを辛抱強く待った。 「アンデ!」 オレは叫びながら先ほどの水汲み場へ向かって走る。アンデは水汲み場の手前に立ち止まり、その先の様子をうかがっている。水汲み場では、野郎の全身が水に浸かり、首をうなだれている姿があった。着ていた白いツナギはボロボロに焼けて、あちこちからブスブスと音を立てながら白い煙が立ち昇っている。 オレが近付こうとするのを、アンデが右腕を伸ばして阻止する。 「どうしたの?」と、オレがたずねると、アンデはオレの耳に口を近付ける。 「様子が変なんだ」 野郎の顔が上がる。濡れた前髪が顔を覆い隠し、泣いているのか笑っているのかよくわからない。 「やあ。また新しい人が来たね」と、野郎はオレに話しかけてくる。 「あのさ、ここがどこか教えてくれるかなあ。なぜ、ボクがここにいるのか。びしょ濡れになっているのか。まるで記憶が無いんだ」
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