第1章

22/23
前へ
/23ページ
次へ
「いいよ」 オレたちは、もう一度『ヘルメット・アンダーワールド』への入り口の壁の前まで戻った。少しの距離を歩いて、アンデの気持ちも落ち着いてきたようだ。 「行くよ」 「うん」 オレたちは『すり抜けモード』で薄い壁をくぐり抜ける。あっという間だった。すり抜けた先は、ぼんやりと明るい金色の陽光に満たされていた。地底だけど辺りは緑の草に覆われ、さわやかな風がオレたちを包み込んだ。 「ここが『ヘルメット・アンダーワールド』」と、アンデがつぶやく。 「その名前は、あの野郎が勝手につけた名前だよ」と、オレは茶化し気味に言う。アンデは、ニコッと笑う。 「じゃあ、ここが私たちの『故郷』だね」 オレたちの行先に立札が見える。近付いて何が書いてあるのか確かめてみる。 『帰還されし強き者により、繁栄はもたらされる』と、書いてある。 オレは、立札の裏側にも回ってみる。 『この壁をくぐり、水汲み場を目指しなさい』と、書かれてある。オレたちは、ここで生まれたとしたら、旅立ちの時に、こちら側を見ていたはずだ。つまり、こちら側が表側なのだ。 この裏側を見ることになっている今の状況は、いったい何を意味するのだろう。現実に、オレたちは裏側を見る展開を迎えているのだが。 「ねえ」と、アンデはオレの腕をつかみ、体をすり寄せる。 「ここまで来ちゃったけど、私たちって歓迎されるのかな。なぜ帰ってきたって追い出されないかな」 「その時は」と、オレはアンデに笑顔を向ける。 「二人でラウンドに戻ろう。地中野菜を育てて、暮らせばいいんだ」 アンデにも、パッと明るい笑顔が訪れる。 「そうだね。ルードと一緒だったら、こわくない」 「でも、一度は試してみようよ。オレたちが、ここへ戻ってきたことに何か運命的な意味があるのかどうか。行けるところまで行って、確かめてみるんだ」 「うん。ルードについていく」 オレとアンデは手をつなぎ、さらに前進して、金色に光り輝く門扉の前にたどり着く。背丈の倍ほどある外壁に囲まれ、金色の格子に締め切られているが、その前に金色のスーツを身にまとった老紳士がオレたちを待ち構えるように立っている。老紳士の胸には、プーカ族のゴーグルとファイガ族の上がり目の眼鏡を模した金の標章(エンブレム)が輝いている。 老紳士は、満面に優しさがあふれるような笑顔を浮かべ、オレたちに向けて丁寧にお辞儀をする。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加