第1章

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「こっちの方に行けるみたいだよ」 「『村長』は水を飲めって言ったよ」 「今は飲みたくない。のどが渇いてからにしようよ」 「早く行ってみようよ」 二人のはしゃぎ声はもつれ合いながらも、オレが早歩きしてきた下り坂、いやこちら側からだと上り坂になるのか、そちらの方へ消えていった。 オレは、二人の少年が出てきた丸い敷物のそばに歩み寄る。強く放っていた光はすでに無く、最初に見たときと同じくぼんやりとした青光りの状態に戻っている。手で触れてみると、それが岩のように硬く、冷たいものであることがわかる。 「『転送機』だよ、それは」と、背後から不意に女の声がする。 まるで、後ろからモリで突かれたように、オレは背骨をのけ反らせる。でも、実際は体を叩かれたわけでも、何かを投げつけられたわけでもない。声の主の方に眼を向けると、そこには娘が一人スラリとした脚を交差して立っていた。いつの間に現れたのか、全く気付かなかった。娘は、栗色の髪を銀の髪留めで纏め上げ、上がり目の形の眼鏡をし、くびれた腰の辺りに『ミドリリュウヘビ』の鱗を組み合わせた装具を巻き付けている。これは明らかにファイガ族を特徴付けている装飾である。 ファイガ族の娘は、眼鏡を鼻の方へずらし、大きな瞳をのぞかせて、オレの方を興味深げに見つめている。 「えっと…」と、オレが言葉を失っているのを見て、娘はクスッと口元を緩める。 「私はアンデ。見てのとおりのファイガ族。あんたはプーカ族だね。名前は?」 「ルード」 「ルード…」 アンデは、噛みしめるようにオレの名を復唱する。 「キミは、さっきからここにいたのかい?」と、オレはとりあえずの質問をぶつけてみる。アンデは、更に口元を緩め、「いたよ」と軽く答える。 「あんたがね、『転送機』が動き出したのに驚いて、そこの岩に隠れたのを」と、オレがかつて隠れていた岩を指差す。 「あっちの岩に隠れて、ずっと見ていたの」 今度は、オレを背後から見渡せそうな場所にある岩を指差す。 「なんか面白かった」 「まあ、そうだろうさ」と、オレはふてくされ気味に言う。 「ぶざまに驚いた姿を見せていただろうからね」 「うん。ぶざまに驚いてた」 アンデは、お構いなしにゲラゲラと笑い声を上げる。 「キミは、どこから来たんだ?」 オレがそうたずねると、アンデの笑い声はピタリと止まる。
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