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「だから、『ヘルメット・アンダーワールド』に戻れなくなるんだよ」
ここまでの彼女との会話を一度整理してみようと気を落ち着かせてみる。まずは、あのプーカ族の子供たちも、このオレも、彼女も、『ヘルメット・アンダーワールド』からやってきたということだ。
「そこは、いったいどういう所なんだ?」
「生まれ故郷だよ。プーカ族も、ファイガ族も、みんな『ヘルメット・アンダーワールド』で生まれて、そこから巣立ちするんだ」
「オレが、それを覚えていないのは、水を飲んだからなんだね?」
「『忘却の水』は、それまでの記憶をすべて消してしまうんだ。だから、帰り道はもちろん、『ヘルメット・アンダーワールド』の存在そのものまで忘れてしまう」
「そういう仕組なんだ」
「そう」
「誰が、何のために?」
「『誰が』という質問なら、答えは『村長』だよ。でも、『村長』も自分で判断しているんじゃない。昔からの決まりなんだ。『村長』は、決まりに従っているだけ。『ヘルメット・アンダーワールド』から出て行く子供たちは、みんな水を飲むのが決まりなんだ。そして、『何のために』の答えは、出て行った者たちが戻ってこれないようにするため。つまり、『ヘルメット・アンダーワールド』を守るためだよ」
「でも、キミは水を飲まなかった」
オレは、アンデの言葉にそうつなげた。
「そのとおりだよ」
アンデは、素直に認めた。
「私は、水を飲まなかったから、『ヘルメット・アンダーワールド』のことを覚えてるんだ」
「なぜ?」
すかさず、オレはたずねる。
「キミが水を飲まないと判断した理由は?」
その質問には、アンデは何も語らない。厚めの唇を一文字につぐみ、じっとオレの顔を見つめ返すだけだった。
「答えないのにも何か理由がありそうだ」
オレは、別に彼女を追い込むつもりは無い。これ以上の詮索はしないことにした。
「ねえ、ルード」と、アンデはくすぐったい声でオレに語りかける。
「いっしょに探してみない?」
「『ヘルメット・アンダーワールド』をかい?」
「そう。あんたとなら、見つけられる気がする」
オレは、首を横に振る。
「見つけたところで、何になるんだ?」
「暮らすのに良いところかもしれない」
「キミとオレとで暮らすのかい?」
アンデは頬を赤くして、首を縦に振る。
「今、出会ったばかりなのに、何でそんな話に」
「あんた、いい人だと思う」
「『イワウリ』をあげただけだよ」
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