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「おいしかった。だから、好きになった」
ファイガ族の女って、惚れ症なのだろうか。だとしたら、軽率にモノをあげたりするんじゃなかった。
「何か心当たりでもあるのかい?」と、オレはアンデにたずねる。
「好きになるのに、心当たりは関係ないよ」と、アンデは当然だと言いたげに答える。
「いや、そのことじゃなくて…」
オレは頭の後ろをかきながら、アンデを正面から見すえる。
「『ヘルメット・アンダーワールド』の場所に関する心当たりのことだよ」
アンデは、「あっ」と声を上げて、オレの視線を真正面から受け止める。悪戯っぽい笑みの中に、大きな瞳がキラキラ輝いている。
「この『転送機』の向こう側に行けば良いんだと思うよ」
「これは一方通行なんだろ?」
「だから、これのもっと下の方に行くの」
「当てずっぽうで『すり抜け』をするのは危険だよ。『すり抜けモード』での移動には限界がある。先に進める空洞が見つけられずに、途中で力つきたらおしまいだ」
「もちろん慎重にやる」
「調査するってことか」
オレは、『転送機』のある位置の向こう側、つまり今まで通ってきた洞窟の反対側の岩壁付近に近寄ってみた。アンデも、オレの後ろをついてくる。
岩壁に向けて手の平をかざしてみると、どこからか弱い風が吹き込んでいるのがわかる。壁になっている地盤のどこかに隙間があるらしい。なるほど、アンデの言うとおり、この先のどこかに空洞があるのかもしれない。空洞を利用して休み休み『すり抜け』を繰り返していけば、更に奥深くに進むことができる。
「探してみる気になった?」
アンデは声を上擦らせながら、オレにたずねる。オレに対して、かなりの期待感を抱いているようだ。冷静に考えて、オレは頷かざるを得ない状況のように思う。
「今さら、あの野郎が待ち受ける地上に戻れないし、この先に行くしかないのかもな」
「ああ」と、アンデは嬉しそうに声を上げる。
「私たち協力していけば、きっと見つけられるよ」
「キミの力か…」
オレは少し考え、アンデと向き合う。
「松明(たいまつ)になりそうなものが無いかな?」
「明るくしなくても、これぐらいの暗さなら私にも見えるよ。結構、眼は良い方なんだ」と、アンデは得意げに言う。
「いや…明るくするためじゃなくて、風の流れを調べたいんだ。ここには風が吹き込んでる。どこかに隙間があるんだ。その場所を特定して『すり抜け』してみる」
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