第1章

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「じゃ、松明を作らなきゃね。材料になるものがあるかな」 二人して辺りを探してみるが、土と石ばかりで、火種になりそうな植物の葉や根のようなものは何も落ちていない。 不意に思いついたのが、『イワウリ』をこの場で育てるというアイデアだ。オレは、いつでもどこでも栽培できるように、『イワウリ』の種を持ち歩いている。『イワウリ』は成長が早く、根が丈夫で、どんなに固い岩盤であろうと、わずか数分で実を成らせる。アンデに炎を出してもらえば、光合成を促進させ、更に時間短縮ができる。だが、『イワウリ』は非常に広く生育するので、この十メートル弱程度の円形の広間では、あっという間に茎や根でいっぱいになり、オレたちの身動きが取れなくなるおそれがある。『イワウリ』を育てるには、少なくとも五十メートル経ぐらいの広さが必要だ。 「これを燃やしてみるかな」と、アンデが自分の髪留めを外し始める。らせん状に巻きつけてあった栗色の髪が一気に解け、ふんわりとしていた髪が胸元辺りまで落ちてくる。それと共に、丸くて黒い石のようなものが足元に落ち、コロコロと地面を転がる。アンデはそれを拾い、オレに見せる。 「おばあちゃんにもらった石だよ。『セキタン』っていう宝石で、髪を結うときに使っているの。おばあちゃんから、これは激しく燃えるから、火には近づけるなって言われてた」 「おばあちゃん?キミの?」と、オレはたずねる。アンデは、懐かしそうに眼を細める。 「『ラウンド7』で私のことをいつも大事にしてくれたの。いろんなことを教えてもらったんだ。でも、白いヤツにやられちゃった」 「じゃあ、形見じゃないか。大事にしなきゃ…」 「いいの」と、アンデは笑顔を見せる。 「ルードの役に立ちたい」 「うまく行くかどうかわからないよ」 「とにかく、やってみる」 アンデは『セキタン』を地面に置き、大きく息を吸ったかと思うと、勢いよく炎の息を吹き付ける。『セキタン』は業火に包まれるが、アンデが息を止めると白い煙を微かに残すのみで、燃焼までは行き着けない。二、三度、アンデは同じように繰り返してみるが、なかなか火が着かなかった。 「難しいね」と、アンデは疲れ気味にため息を漏らす。 「『セキタン』から熱がすぐに逃げないように工夫してみよう」 オレは、乾燥した『イワウリ』を手にし、糸状に細長く引き裂いて、『セキタン』に巻き付けてみる。
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