天使降臨

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 子育ては女の仕事。そんな時代は終わった。  私が担当する人間たちの中に、男が増え始めたのはいつごろだったか。子供に対する愛情表現が上手くできない者、妻との子育てにおける価値観の違いに苦しむ者、子供が可愛いと思えない者。  悩みは人それぞれ、面白いほどに違っていた。だが私にとっては、そのどれもが素晴らしい! 悩むことは人間を成長させる。全く悩まぬ者よりも、その姿は何倍も素敵に映るというものだ。  子育てに悩み、男も子と一緒に成長する。そういう時代が始まったのだ。  雲の縁に立ち、私ははるか下に広がる人間たちの街を見下ろした。ビルの隙間を無数の人間が砂粒のようにすり抜けていく。  私は出張命令書をカバンの中から取り出し、何度も確認した文面を見直した。 〈出張先 日本 ○○県 瀬戸大輔、優香夫妻宅 目的  子育てに不安を持っていると思われる瀬戸大輔の調査。調査結果によってはサポートを行うこと〉  今回の対象も男性だ。迷える子羊よ、すぐに行くぞ。書類をしまい直し、早速、真下の街へ向かって飛び降りようと前のめりになったとき、ふと忘れ物に気が付いた。カバンから名札を引っ張り出し、首にかける。  〈日本天使公共団体・保健福祉局・子育て支援部子育て教育課 シゲル・オールチャーチ〉  私は天使として迷える人間たちを幸福にするという使命がある。  その誇りを胸に、今度こそ私は空中へと身を投げた。流星のように凄まじいスピードで落ちていく。小さかった街がぐんぐん拡大されていき、視界いっぱいに広がった。  待っていろ、まだ見ぬ瀬戸大輔くん。私が必ず君を不安から解放してやるからな!
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!