【① あヵ鬼】

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俺は通学路を歩きながら内心でため息をついた。 ただ道路を歩いているだけ。それなのに、同じ学校の生徒達から向けられる視線とヒソヒソ話が居たたまれなかった。 「うわぁ~今日も機嫌悪そ~」「怖ぇ~」 いやいや。今日は朝から星座占いが1位でご機嫌そのものですよ。 「ほら、アイツが赤鬼だよ」「あぁ~バイクに乗った不良を蹴り飛ばして返り血で赤く染まったっていうアノ」「警察ざただったらしいぞ」 いやいや。アレはバイクで事故した人を助けただけだし、その救急車と警察呼んだの俺なんだけど。 彼らの話に内心でツッコミを入れるけど、直接話しかけて否定するなんて“内気な”俺には到底無理だ。 俺、鬼ノ城吉彦(きのじょうよしひこ)。 180㎝を越える長身。細めの一重の三白眼。強面の見た目と、口下手な性格のせいで人に誤解を与えてしまうことが多く、ついたあだ名は赤鬼だった。 友達と呼べる存在はネットの中だけ。 中学3年の時、数年前に亡くなってほったからかしだった祖父の家をリフォームして引っ越すことになった。そこから通える普通科高校を受験したのでこの学校に知り合いはいない。過去の自分を清算して誰も自分を知らない場所で華々しい高校デビュー…の期待はもろく崩れ去り、はや2年。学校で話せる人なんて全くいないのが現状である。 鋭い三白眼のせいで同級生どころか先輩にまで恐れられ、他校生に喧嘩も売られる。 イタリア人の祖母ゆずりの赤毛のせいで染めてないのに教師に目をつけられる。 仲間と青春を過ごす夢の高校生活…なんて自分には程遠い。 「おはよう!ほら授業始まるぞ!」 ん?この声は数学の近藤先生か? じっと目を凝らして声の主を見ると、先生はビクリと身を震わせた。 「お、おぉ…おはよう…」 さっきの威勢のいい声とは明らかに違う震えた声に、俺は挨拶を返すのも忍びなくなり、横を無言で通り過ぎる。 自分でも目つきが悪いのは自覚がある。視力が悪いせいでつい目を細めて眉間に皺を寄せてしまう。きっとさっきも暗殺者並みの眼光で睨みつけられたと思われたに違いない。 でも眼鏡は頭痛がするし、“見えすぎる”から常につけていられないのが悩みだ。校門をくぐるとますます集まる視線に俺は内心でまた大きくため息をついた。
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