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 最寄りの駅までは徒歩で行く。座ったままでの仕事が多いので少しでも健康でいようと、勤め始めた日から一度も欠かしたことはない。車は持たないし、自転車も使ったことがなかった。  普段より早く家を出た早乙女は、ゆっくりと時間をかけて歩いたが、二本早い電車に乗ることができた。朝が弱い早乙女にとって、これまでにない快挙だった。駅のホームに降りたらやはりごった返しているが、知らない顔だらけで各々の行動も違う。いつも新聞を読んでいる人が座っているところにはイヤホンをかけた若い女性が座っていたり、キレイなスーツに着られた若い男性が立っているところには、これから旅行に行くらしい団体が塊になっていた。見慣れない空間は少し違った世界を見ているようだ。いつもなら中年男性の背広を眺めて立っていた早乙女も、今日は流行りにのったジャケットを着ている男性の後ろ姿を見ながら並んだ。  十分ごとに出る電車は、しばらくの時間はどこも満員で、早乙女が乗った車両も例外ではない。人々がすし詰めとなってひしめき合い、皆一様に肩をぶつけながら電車に揺られる。違うといえば、普段乗っている時間の電車は会社勤めの人々が多いが、今日は、朝の部活動生が多いこと。どこもかしこもスピーカーを置いているかのように会話が飛び交い、早乙女は、運動部の学生は朝から元気がいいものだと、つり革につるした腕で片耳を押さえながら電車全体から聞こえる声を聞き流していた。  七人掛けの椅子は、学生が陣取っていて、次に停まる学校近くの駅までは座れない。早乙女の前にも、エナメルのスポーツバッグを肩から掛けた二人の男子高校生が座っていた。聞き耳を立てているわけではないが、目の前に立っていると否が応でも二人の会話が耳に入ってくる。似た身なりの上、話し方や部活のことで盛り上がっていることから、どうやら同期の同部活生らしかった。 「この前の、――の新作」 「ああ、――が出したゲームな。三作目なのに変わり映えがないやつ」  早乙女は、それまで興味なく聞き流していたが、話題が変わるや学生に視線を落とした。反射的にとった行動だったので慌てて前方に向き直す。固い顔をした自分がうっすらと窓に映っていた。 「な。戦闘システムの継続はいいとしてストーリーとかも似てたし」 「そうなんだよ。新しく買う必要なさそうな感じ」 「な。いい機会だし、俺、そろそろゲームやめよっかな」
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