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「まじか」 「うん。来年受験あるだろ。今のうちにやめられそうなのやめとこうと思って」 「俺も、もう年齢的に離れてもいいかなとは思ってたところなんだよな」 「お前もか。決定打を打ってくれたあのゲームには、ある意味感謝だな」 「だな」 「とか言って、続けるなよ?」 「やんねーし! お前には負けたくねーし!」  駅に着くと、学生たちは潮が引くように降りて行った。代わって、スーツを着た大人たちが次々に押し寄せてくる。早乙女は、座るタイミングを逃してしまったことで奥に追いやられ、車両中央でつり革にしがみつく羽目になった。トンネルに入った電車は、外を黒く塗りつぶし悲しげに眉間を寄せる早乙女を鮮明に映し出していた。  メトロノームのように一定のリズムを刻む走行音だけが車内に響く。大人だけの空間はとてつもない静寂に包まれていた。  ――……誰が作ったと思ってんだ。  早乙女は、静寂を破りたかったがそんな勇気もなく、スーツに押しつぶされるなか誰にも聞こえないよう心の奥底で呟いた。学生が電車を下りた後は慣れた静けさを取り戻したが、多くの会社員が寿司詰めになって朝のストレスに我慢を強いられている。新聞を悠々と読む男性やうたたねをする女性なども居るなか、早乙女は窮屈さとは別の居心地の悪さを覚えていた。  目的の駅でドアが開き、半ば流されるかたちで電車を降りた流れをそのままに改札から街へと踏み出すと、いつものコンクリートジャングルが広がっている。道行く人々は、一点を見つめて足早に歩き周りの誰にも興味がないようだ。多くの人や高層ビルを覆うように上空一面が青一色に染まっていて、春霞はどこへやら、照り返しの強い太陽光が上からも下からも肌を刺す季節に差し掛かっていた。五月もはじめなのに暑くなりそうである。  早乙女は、コンクリートジャングルへと踏み出してもなお電車内で向かいに座していた学生の会話が頭から離れなかった。  ――自分の人生を左右しかねない大イベントに備えて必要な準備をするのは、とても重要なことだ。彼らは間違っていない。でも、何でこんなに悔しい。何がいけない。いつもと違う感じって何だ。いつも違ったものを出しているはずなのに。
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