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 横を次々に追い抜く会社員に、ふと早乙女が零した。「みんな忙しいんだな」と、他人事のように。ショーウィンドウ越しに自身の歩調が遅くなっていたのだと気付き、また、ショーウィンドウに飾られた手の届かぬブランドに視線を配ると歩調を元に戻した。職場の高層ビルはもう少し先にある。その間、季節外れの強い太陽をなるべく避けようと建物のそばを歩き、日陰の恩恵にあやかって歩いた。硬いアスファルトを踏み続けようやくついた高層ビルに入り込むと、エレベーターのボタンを押した。目指すは十二階、早乙女の務めるオフィスである。  十二階に着いたら受付の女性に挨拶をした。二人のうちのまだ一人しか来ていない。奥へと続く白い廊下を進みオフィスのドアを開けると、同僚は目を丸くし挨拶よりも先に感嘆の声を上げた。次いで、飛んでくる挨拶に早乙女は苦笑いを浮かべ、一つ一つ答えていった。早乙女のデスクの隣はまだ来ていなかった。少ない人数のオフィスが新鮮で、少し気が晴れた早乙女はさっそくパソコンを起動させ、引き出しに入れていた書類に目を通す。昨日配られた家庭用ゲーム企画のたたき台であった。早乙女は、他に務めたところがないので一般的かどうかはわからないが、所属する企画チームでは、決まった方向性をもとにそれぞれがたたき台を出し、絞られた一つの案がメンバー全員に渡され、各自細部の構想を決めた後に会議へ持ち寄ってまとめていく手法をとっている。早乙女は、さっそく案を書き出す作業へと入った。  午前中のうちに一通り済ませてしまおうととりかかった作業も、三時間もすれば肩が強張ってくる。あと一時間半もすれば昼食の時間だ。深呼吸をして集中力を戻そうと試みたが、ペンを握ってもパソコンを触っても戻らない調子に諦めが生じ、デスクから離れることに決めた。
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