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 向かったのは、同じフロアの廊下にある簡易休憩コーナーだ。角に設置された自販機でコーヒーを調達して椅子に腰かけると、気分転換にスマートフォンのゲームフォルダの中からアプリを起動させた。ゲーム開始の軽快な電子音楽が流れる。黄色くて丸いキャラが、幼児の音が鳴る靴さながらに音をたてながらドットを食べていき、最中に追ってくる四色のゴーストをよけながら進んでいくゲーム。全部のドットを食べるためにはゴーストに当たってプレイヤーが消滅するのを避けなくてはならない。一面を食べ終えたら次のステージに移り、より難しくなっていく。早乙女は、このゲームを何度クリアしたのか数えきれないほどやりこんでいた。 「パックマン。懐かしいね~」 「ほあああ!? 黄丸さん、ちょ、急に後ろから声かけないでくださいよ!」  早乙女は、スマホをお手玉にして慌てて机の上に置き黄丸に噛みついた。企画部のチームリーダーで気兼ねなく話せる先輩でもある黄丸は、黄色地のチノパンツに赤い革靴が定番で、その個性から入社一番に早乙女が覚えた人物だ。 「通路側に背中向けてるのはそっちでしょ……。サボり?」 「サボりじゃないです、休憩です!」 「体調悪いの?」 「いえ」 「それをサボりって言うの。他から見つかる前に戻った方がいいよ」 「う……」  机に置いたスマホには、ゲームオーバーの文字が点滅している。いつの間にかゴーストに当たっていたようだった。  黄丸は、早乙女に戻るよう指で指示すると、もともと向かう予定だった方向――所属部署がある方向へ向き直る。早乙女も観念して立ち上がると、肩を落として黄丸の後をついていこうとした。待つ気配のない黄丸に、待ってくださいよ、と声をかけようとしたとき、小脇に抱えられた書類ケースが目に入り、え、と声を漏らした。声に気づいた黄丸は、どうした、と早乙女に振り返った。
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