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 目視できる限られた範囲ではあるが、危険なものはなさそうだと判断した早乙女は、体をひねって自分自身に異常がないかを確認した。暗いせいでわからないだけか、汚れ一つ見当たらず痛むところも全くない。ネイルも無事だった。  通路の幅は、両手を指の先まで伸ばしたら届くほどで、壁が一直線に続いており、クッキーは中央に等間隔で落ちている。アトラクションにしても、説明が一切ないので手掛かりとなりそうな袋と光り輝くクッキーを見比べ、しばし悩んだ。そして、一つの答えにたどり着いた。 「拾っていけってことなのかな」  早乙女は、意を決して一歩前に踏み出した。十歩も歩けば次のクッキーが落ちているので、前にかがんでひとつひとつクッキーを拾い、袋に入れていった。同じような動きの繰り返しは、体を硬化させていく。途中、背伸びをしたり柔軟運動をしたりしながら地道に拾った。 「通った道は、これでわかるけど……」  ぽつりとつぶやいて、来た道に振り返った。一直線に無音の暗闇が続いている。早乙女は、総毛だった。  クッキーがなくなったことで壁がほのかに青白く光っていたのがわかったが、道幅全てを照らす光力は持ち合わせていないようだ。静かに佇む闇は、世界が消えていく様を彷彿させた。  無音。  朦朧とした意識から早乙女を引きずり出した電子音も、初めの爆音以降、一切聞こえない。たった一人、暗闇の世界に取り残された早乙女は、振り返るのをやめ、黙々とクッキー拾いに明け暮れた。 「何かの、罠だったらどうしよう……。どこかに出口ないかな」  弱々しい声色は、こだますることなく無機質で冷たい壁を滑ってきえてしまった。  歩みを止めて壁に手をついてみれば、凸凹どころか傷一つない立派なもので、間接照明よりも優しくほのかな明かりと石を削って研磨したような美しい壁のつくりに、早乙女は、思わず感嘆の息を漏らす。爪でこすったり指先で壁をつついてみたりしたが、低くて冷たい音が鳴るだけだった。  出口は見つからず、再びクッキーを拾いながら歩き始める。最初はおずおずとした足取りだったが、時間がたつにつれ淡々と進めるようになってきた。通路は依然、等間隔にクッキーを落とし、真っすぐな壁を保ったままだった。
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