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 少しの間歩いていると目の前に壁が現れた。左右どちらに進むかを決めなくてはならない。クッキーは、どちらにも等間隔に並んでいた。  早乙女は、警戒しつつなるべく遠くを覗き込んでみたが、景色は今までと変わらない。つま先立ちで上体を伸ばしてみたり、地面すれすれに頭を下げてみたりといろいろ試したのち、行動に意味がないのだと悟ると左へと曲がった。こすれたスニーカーのゴム底が高い音を響かせる。早乙女は、反射的に後ろを振り返ったが、反対側の道にクッキーが並んでいるだけだった。  身震いを一つ起こして前を向きなおし進んでいくと、クッキーが途絶えている個所が見えてきたが、距離を置いたまま覗き込んだら、またも分かれ道のようだった。早乙女は、右に曲がった。  道はまだ続いている。早乙女は、ううんと喉の奥で唸った。 「これ以上あてもなく歩いていいのかな。……ん?」  視界の端に赤いものが見えた。クッキーを頼りに目視およそ十五メートル先から曲がって、早乙女に近づいてきている。早乙女は後ずさった。曲がり角に身を隠し、得体のしれない"赤いもの"を観察した。赤いものは、近づくにつれておおよそ手のひら程度の大きさであると分かった。生き物が布を被っているようにも見えるが、歩いているのではなく浮遊していて、目玉も布の上から生えているようだ。大きく愛嬌のある青い目は、斜め上を見ていたり、横を見ていたり、せわしなく辺りを見回している。早乙女は、あ、と声を上げた。 「ここ、パックマンのステージだ」  赤い浮遊物に見覚えがある早乙女は、前に進むのを躊躇した。近づいてきているのは、ゴースト――ブリンキーで、パックマンでは、プレーヤーを見つけたら追い回してくるキャラクターだ。当たればプレイヤーが消滅してしまう。一度は復活できるが、あくまでゲームの話であって、今の早乙女には未知の存在だ。
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