2-1

2/3
前へ
/32ページ
次へ
 香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。そよ風に誘われて瞼を開けると、目の前のテーブルでは、焼き立てのロールパンとミルクコーヒーが湯気をたてていた。揺れるカーテンの先には青い空が広がっていて白い薄雲が悠々と漂っていて、ベランダに集まったスズメが羽をばたつかせては互いに朝の挨拶を交わしていた。椅子に深く腰掛けていた早乙女は寝ぼけまなこをこすり、流れる雲をただ虚に眺めた。  ひときわ強い風がカーテンを揺らして家の中へ入ってきたとき、早乙女はつつかれたように背筋を伸ばしてテーブルの上に両手の指先をついた。見つめる指の先には、ピンク色のネイルが朝陽にラメを反射させている。服を掴んで見てみたところ、上下ともに寝間着のジャージを着ていた。 「居眠り……? 嘘……」  つけていたテレビ番組は、天気予報を朗々と読み上げている。普段、早乙女が起きるかどうか迷ってベッドのさなぎになっているときに流れるコーナーだ。椅子に座ったまま眺めていると、そのうち占いのコーナーに移っていき、これまた陽気に、女性アナウンサーが二人並んでランキングの発表をしていた。最下位で悔しがる星座のアニメーションをとりとめもなく眺めながら、表面が照りついたパンに噛り付いた。早乙女の星座は、トレーラー式に発表されるなかに入っていて、どちらかといえば運気がいい日であった。ほとんど見ることができない朝のニュースの占い結果に気を良くし、地域情報コーナーの音楽に合わせて足を揺らした。 「早起きは三文の徳ってか。よし。今日は早めに仕事行こう」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加