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 早乙女は、残りのパンとコーヒーを流し込んで手早く朝食を済ませた。定番のシャツとスラックスに着替えると、寝起きの野暮ったさが少し抜ける。顔を洗って申し訳程度に化粧をし、髪を団子に結い上げて眼鏡をかければ、仕事に向けてのスイッチが入った。髪の毛を上げるのは己のうなじに色気を見出そうとしているからではない。ただただ鬱陶しい髪の毛をどうにかしたかった。苦手な美容院を避けているうち、伸ばすつもりがなくとも立派に長くなってしまった黒髪に与えられた場所は、一つしかなくなっていた。  身なりを整えた後は、ワンルームのリビングで話し続けているテレビを消し、置いていた通勤バッグを持って玄関へ向かう。使い古したスニーカーを履くとワンルームにつながる廊下へ振り返った。 「行ってきます」  早乙女の声は、がらんどうの部屋に響いた。
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