この世界と私

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ある時、科学者の一人に、いつもとは違う部屋に連れて行かれた。私はただ誘導されるがままに、彼の後を着いていく。 私の目には、彼の後ろ姿しか映っていない。 他を見る事もせず、ただその姿をぼんやり見ていると、奥の壁を見るように言われた。そこで、此処が研究所の一室だという事を知る。 その壁には、全裸の男が繋がれていた。……いや、磔にされていた、というのが正解だろう。壁と男の身体繋ぐように、幾本もの楔が打ち込まれている。 しかも驚く事に、首には鋼鉄の板が刺さり、その殆んどを切断していた。頭と身体は、まさしく首の皮一枚で繋がっているのだ。それでも生きているその男は、私と同じ、超再生能力を持っているのだろう。鋼鉄の板が刺さったままなのは、その能力で元に戻らせない為か。 でも、その瞳は私と違った。 怒りに燃える双眸は、感情を、生命力を漲らせている。その男に、ここの所員だろう男が注射をしていた。 「君も知っているだろうが、首を完全に切り離すと、すぐに身体が生えてくるからね」 私の後ろから、科学者の声が聞こえる。 私は頭を巡らせて、科学者の方を見た。その手にも注射器が握られている。 「すごく暴れる男でね。こうしてやっと捕獲したんだが、彼を見ているうちに良い事を思い付いたんだよ」 まるで、新しい玩具を手にした子供のように、愉しげな声だ。顔には厭らしい嗤いが浮かんでいる。 その表情のまま、私の腕に注射器の針を刺す。 意識が暗転した。
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