この世界と私

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「耳障りだ」 再び聞こえた声の方向に、機械的に頭を動かす。そこにいる男の視線は、未だ科学者を捉えていた。しかし科学者は、それを嘲笑うように見ているだけだ。 そんな科学者に、男が言った。 「お前達が何をしようと、俺の身体は俺のものだ。誰のものでもない」 それを聴いて、科学者は鼻で嗤う。 「こんなに上手くいくとは思わなかったが、良い見世物だよ。それで? そんな身体でどうしようって言うんだい? それよりも、君には今まで散々な目にあったからね。その鼻っ柱をへし折ってあげるよ」 科学者の顔に、私の上にのし掛かってきていた兵士達と同じ、下卑た表情が浮かんだ。 ああ、私の身体はまた弄ばれるんだ。 私の頭に浮かんだのは、そんな事だった。違うのは、それを私が横で見るという、非現実的な情景。そしてそれを感じるのはこの男なのだという、倒錯的な情景。 私の首の下にある、男のものだったこの身体なら、きっとそんな屈辱を赦さないだろう。しかし今は違う。男の首の下の身体は、非力な女のものでしかない。そう、私のものだった身体だ。 今の私だったら? 男の身体になった、今の私だったら……。 でも私は、その考えを払いのけた。私は力の使い方なんて分からない、知らないのだ。 それに首だけ挿げ替えたらしく、この身体には先程見たままの、沢山の楔が打ち込まれている。動く事すら儘ならない状態だ。 本当の私の身体には、その細い手と足に、枷が嵌められている。それだけだが、今の男には、それを外す事すらも無理な話だろう。 そう思っていた。
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