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「俺の身体は俺のものだ。そう言った筈だ」
男の声は、微塵も揺れていない。そして突然、唸り始めた。
「おやおや」
呆れたように声をあげる科学者の顔には、変わらず嘲笑が浮かんでいる。しかしその表情に、驚愕が混じり始めた。
何が起きているのか。私は男を見た。
それを見た私の顔にも、恐らく科学者と同じ、驚愕の表情が浮かんでいるだろう。
男の首の下から、無数の紅い筋が浮かび始めていた。それは皮膚の下を、無数の蟲が蠢いているようにも見える。それらは次第に法則性を持ち、繊維を撚り集めたような形を取り始めた。
そして盛り上がり、収縮する。まるで脈動のように。
何度か繰り返されるその脈動は、男の肉体を変えていく。
なだらかな肩は隆起し、丸みを帯びた胸は厚く硬く、柔らかな肢体は強靭で鍛えられたものに変わっていった。手足に嵌められていた枷が、堪えきれず砕ける。
男はその意志で、自身の身体を作り変えた――いや、戻したのだ。
私や科学者が茫然としている中、男は猛然と科学者に襲いかかっていた。一瞬の出来事だった。私は自分の目が、信じられなかった。
次の瞬間には、科学者の身体は首から切り離されていたからだ。男は刃物など、持っていなかった筈なのに。
振り返った男の腕を見て、私は更に驚いた。男の腕は、左右とも肘から先が、剣のようになっていたのだ。
男が、茫然とした表情のまま首だけになった科学者に、話し掛けた。
「感謝するよ。お陰で、自分の身体を自分で変えられる事に気付けた」
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