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男は驚き戦く他の人間も、ことごとくその命を奪うと、私の方を見た。この時には、私にはもう驚きは無く、だからといって畏れも無かった。
あるのは、そう、憧憬。
その意志に、生命力に、強さに。
男が近付いてくる。私は掠れた声を出した。
「私も……」
しかし、全てを言う前に、男の腕が振られる。私の視界はゆっくりと回り、そして次に落下を始めた。
落ちながら、痛みが、感覚が、全身に拡がるのを感じる。落ち切る前に、私の身体は再生されるだろう。
落ちた時に全身に感じるであろう、衝撃を待ちながら、目を閉じて考える。
再生された私の身体は、本当に私のものなのだろうか?
と。
男のように、自信を持って、自分のものだと言えるのだろうか?
と。
「おい」
その声に、私は考えるのを止めて瞼を上げた。目の前に男の顔がある。
私の身体を、男が抱えていた。落ちる前に受け止めてくれたのだ。
「あんたにはまだ無理みたいだからな。乱暴だったが、赦せ」
そう言うと、私を下ろす。『赦せ』とは、首を切り落とした事を言っているのだろう。助けてくれた上に謝るなんて、面白い人だ。つい口許が緩む。
「それとあんた、その身体の方が良いな」
私の身体に白衣を掛けながら、照れたようにそんな事を言う男に、今度は本当に笑ってしまった。
「ありがとう」
そうだ、これが私の身体だ。そして今度は私の、自分の意志で生きていこう。
「俺はここから出ていくが、どうする?」
男が聞いてくる。聞かれなくても、私はどうするか決めていた。
そして私達は、外の世界へと足を踏み出した。
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