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「恋がしてみたくて」
雄太郎の口から飛び出したのは、予想外すぎる答えだった。
どっかの女性シンガーでもあるまいに、恋がしてみたいとは夢見る夢子ちゃんすぎる。
「恋って……、そんなの生きてりゃどこででもできるもんじゃねえの?」
実際、七斗は今さっき雄太郎への恋心を自覚したばかりだ。
片思いの相手に言うのなんだが、そんなくだらない理由で、大事な高校進学の時期に上京するとはどうかしている──気がする。
「恩ちゃんはもともとこっちの人やもんなあ。知ってる?東京って、めっちゃ広くて、めっちゃ人が多いの」
いやいやいや、北海道などに比べれば、東京なんて猫の額程度の広さではないか。大阪だってじゅうぶん人は多いだろう。
そんな気持ちが七斗の顔には出ていたようで、雄太郎はさみしそうな笑みを浮かべた。
「こっちは大きな街がたくさんあるやん。渋谷新宿池袋、表参道原宿お台場、ちょっと足をのばして、川崎横浜、夢の国とかな。選択肢がたくさんあるから、出先で知り合いに会うことなんかほとんどないやろ?」
「あー、まあ……そうかな?」
「せやねん。でも俺が生まれたとこは慣れ親しみすぎて、遊ぶ場所が限られてくる気がする。なんばか梅田かたまに天王寺とか。そこに一日中おったらな、知り合いに見られてることしょっちゅうやねん……」
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