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「たまたま同じ講義を取ってただけたよ……」
部屋の隅で縮こまっている雄太郎に向け、七斗は苦々しい思いで口を開いた。
「お前と話してたやつがいるなって思ったのが顔に出たみたいで、あっちから話しかけてきた。ほんとそれだけ」
七斗はできる限り穏やかに喋るよう、努めた。
しかし雄太郎は、まだ納得のいかない様子だ。
「余計なことなんて言わないよ。お前が──男を好きだなんて、わざわざ言うわけがない」
雄太郎の眉が微かにぴくりと動くのを、七斗は切ない気持ちで見た。
「あっそう。ならよかった」
雄太郎はそっけなく言うと、七斗から顔をそむけた。まるで、見てくれるなと言わんばかりに。
ソファー代わりになっているマットレスは、相変わらず布団が敷きっぱなしになっていて、掛け布団はくちゃくちゃにとっちらかっている。
雄太郎がかまわずそこへ腰を下ろすのにならって、七斗も隣に座った。
「おまえ、あっちでは隠してたんだな」
「うん」
「そっか。じゃあ、家族にも隠してんの?」
「いや、家族は知ってる。こっちの高校受験するって決めたとき、カムアウトした」
「ふうん……」
なんともたどたどしい会話を交わし、部屋は沈黙に包まれた。
「なあ……なんでお前、わざわざこっちの高校に来たの?大阪に友達いたんだろ?」
こんなこと、今しか聞けないんじゃないか。どうにもそんな予感がして、七斗は沈黙を破った。
高校進学のタイミングで、親の転勤についていく子供は稀に思える。雄太郎には何か、地元を捨てて逃げたいようなことがあったのではないかと思っていた。
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