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 知り合いのいないところに行きたい。雄太郎が言いたいのはそういうことなのだろうか。 「なあお前、あっちで何かあった?」  要領の得ない話に焦れ、七斗は単刀直入に尋ねた。  雄太郎はじっと七斗を見つめた。その瞳に、言うか言うべきでないか、信用できるかできないか、様々な逡巡の色が見てとれる。  しばらく悩んだ末、雄太郎は重い口を開いた。 「俺な、あっちにおる時、SNSの鍵アカ持ってたんやんか」 「鍵アカ?」 「そう、ゲイ専用のやつ」  初めて雄太郎の口から「ゲイ」という言葉を聞いた。  七斗の心臓が、ドクリと大きく鼓動する。 「中三の夏休み、そのアカウントで知り合った同い年の男子と、ミナミで待ち合わせした。買い物したり、映画観たり、ゲーセン行ったり、普通に遊んで楽しかった。それで最後……、キスしてバイバイしたんやんか。『またね』みたいな挨拶のノリで……」 「そっか」  相手を異性に変えてみれば、よく聞く話だと思った。雄太郎の恋愛対象は同性なのだから、他人がどうこう言えることでもない。  七斗は小さく相づちを打ち、雄太郎が続きを口にするまで辛抱強く待った。 「……それで家に帰って、タイムラインチェックしたら……、その子が昼間一緒に自撮りした画像上げてて。もちろん顔のとこはスタンプで隠されたんやけど……、それでも見る人が見たら、服装とか、体つきとかで俺やってわかる感じで……」  いつの間にか雄太郎は、すがるような目をして七斗を見ていた。  もしかしたら、雄太郎の触れられたくない部分を土足でズカズカ踏み荒らしているのではないか。そう思ったが、知りたい欲のほうが勝ち、話の続きを無言で待った。 「……しばらく経った頃、全然知らない人からメッセージが来た。『画像見たよ。君、どこどこの塾に電車で通ってるやろ』って。……正直、ゾッとした」 「そんなの……こっちだって一緒だろ……?」  SNSで炎上でもしようものなら、すぐに身バレする時代だ。この場合、安易に画像を上げた友人に非があるのではないか。
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