0人が本棚に入れています
本棚に追加
目を覚ました。
いつもの天井。
いつもの匂い。
「……え……?」
別に病室のベッドの上ってわけじゃない。
わたしの部屋だ。
体に痛みはない。
「夢……?」
あれは、夢だったの?
とりあえず、下に降りる。
リビングでは、お母さんが映画鑑賞を楽しんでいた。
「お母さん、楓はまだ起きてないの?」
お母さんは首をひねる。
「カエデ? 誰、それ?」
え?
「あ、もしかして、椿の彼氏?」
ニヤニヤするお母さん。
ああ、そうか。
楓は夢の中の登場人物だから、現実にはいないんだ。
でも、夢の中では、ずっと前からいたような……。
あれ?
なんで夢の中に、いるはずのない弟が出てくるんだろう?
別に、弟や妹が欲しいとか、強く思ったことはないのに。
そもそも、あれは本当に夢なの?
寝汗の気持ち悪さ。
くさやのあの強烈な匂い。
鳩尾を殴った時の手応え。
全てが、鮮明だった。
あれが……夢?
「ほら、早くしないと遅刻するわよ。」
お母さんに急かされ、朝食やら着替えやらを急いで済ませた。
「いってきまーす。」
今は現実……だよね?
そう信じていたい。
嫌な考えを振り払うように、わたしは足を早めた。
最初のコメントを投稿しよう!