壱の回 ピエロは夢の中で笑う

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目を覚ました。 いつもの天井。 いつもの匂い。 「……え……?」 別に病室のベッドの上ってわけじゃない。 わたしの部屋だ。 体に痛みはない。 「夢……?」 あれは、夢だったの? とりあえず、下に降りる。 リビングでは、お母さんが映画鑑賞を楽しんでいた。 「お母さん、楓はまだ起きてないの?」 お母さんは首をひねる。 「カエデ? 誰、それ?」 え? 「あ、もしかして、椿の彼氏?」 ニヤニヤするお母さん。 ああ、そうか。 楓は夢の中の登場人物だから、現実にはいないんだ。 でも、夢の中では、ずっと前からいたような……。 あれ? なんで夢の中に、いるはずのない弟が出てくるんだろう? 別に、弟や妹が欲しいとか、強く思ったことはないのに。 そもそも、あれは本当に夢なの? 寝汗の気持ち悪さ。 くさやのあの強烈な匂い。 鳩尾を殴った時の手応え。 全てが、鮮明だった。 あれが……夢? 「ほら、早くしないと遅刻するわよ。」 お母さんに急かされ、朝食やら着替えやらを急いで済ませた。 「いってきまーす。」 今は現実……だよね? そう信じていたい。 嫌な考えを振り払うように、わたしは足を早めた。
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