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三回目の朝。
やっと普通に戻れた気がした。
先に出た楓を目指して、駆け出す。
夢だってなんだっていいや、楽しければ。
あと十メートルで追いつくというとき、楓が振り返った。
何かを必死で叫んでいる。
「何? 聞こえなーー。」
カンカンカンカン……。
気がつくと、警報機が鳴っていた。
前方後方にある踏み切りが、いつの間にか下がっている。
そのとき、楓の反対側に、あいつが見えた。
あの夢の中のピエロが、踏み切りの向こうに立っている。
人間に近い大きさで。
笑っている。
線路の上に立つわたしを見て、そいつは笑っている。
なんなの、こいつ。
ーー誰だか、わからないんだ。
頭の中に直接響いてきた。
目の前のピエロとは、全く印象が違う女の声。
一番初めに見た夢の声とも違う。
ーー忘れたんだね。親友の声を。
この声……美玲?
雰囲気が全然違うけど、これは間違いなく美玲の声。
ーー夢で死ぬとき、あなたはパニックなんて起こしてなかった。死ぬの、怖くないんでしょ?
何を言ってるの?
死ぬのは、誰だって怖いはずじゃない。
夢だから、怖くなかっただけ。
そのとき、快速の電車が走ってきた。
スピードはとても速く、今ブレーキをかけても、逃げない限りわたしは轢かれる。
でも、これも夢。
だから、怖くない。
ーー自分でも気づいてるはず。だって、これはあなたの夢。あなたが、自分で作ることができるんだから。
夢だから、死ぬ前に目覚める。
楓は、踏み切りに引き返そうと走っている。
夢だから、楓もわたしも、誰も死なない。
ーー自分が創造した夢は、自分で変えられる。夢と現実の境界線を、なくすことだってできる。
「え?」
電車は、もう目の前に迫っていた。
今から逃げても、もう遅い。
これは、現実なの?
ーーこれは、あなたが生んだ結果。あなたの、本当の望み。
わたしの、望み?
ありえない、だってわたしは……自殺なんてことはしないって決めてるのに。
電車がぶつかるまでを、わたしは黙って見ているしかなかった。
わたしは……こんなことしない。
……美玲、なんで?
ガシャン!
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