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「今まで黙ってたんだけど、実はオレ、妻がいて…」
「は?」
「ゴメン!本当に悪いと思ってる!でもキミへのこの気持ちは嘘じゃ…ごふっ」
華麗に宙を舞った私の美脚…相手の顔面へ、寸分たがわずピンヒールの先を食い込ませていた。
…とある晩春、夜更けの歓楽街での出来事。
そう。この恋は、はじまった瞬間から危険な香りがしてた。
相手は通いつめてたお店のバーテンダー。
シェイカーを振る長い指先に心奪われ、とりとめのない会話にさえ胸がときめいた。
他のお客が帰ったあと、店の看板をclosedに裏返したら、二人の時間がやってくる。
週末は絶対に会えなくて。何かしらの理由でクリスマスもバレンタインも一緒に過ごせなかった。
胸のうちにくすぶる不信は、いつも言葉と行為でねじ伏せられた。
問いただす前に、キスで唇をふさがれる。そのまま有無を言わさず、ベッドへ直行。
…結末は御覧のとおり、あっけなく。ドロップキック一発で幕切れ。最低ですか?何もかも。
だけど、こんなふうな終わり方したからといって、私だけが寂しい独り身になるなんて耐えられない。
恋愛の傷は、恋愛で埋める流儀。
私はバカじゃないから。今度のことで学んだから。
次は、この世で一番、安全な恋をするの。
相手はもう決まってる。
勤め先の同じ部署。最近、中途採用で入ってきた新人君。
いまいちパッとしないけれど、なついてくるから可愛がってた。
見た目からして女の子に縁はなさそう。つまり、身ぎれいそう。
…よし。行く。
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