6人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「なぁ――」
何で苗字で呼ぶんだ――そう言いかけてやめた。
それだとまるで名前で呼んで欲しいみたいじゃないか。
俺はこいつと仲良くしたいわけじゃない。解放されたいんだ。
「何?」
「…お前高校生になったんだし、いい加減彼女でも作れよ」
つい出てきたのはそんな言葉だった。
「好きな子いねーの?」
俺の質問に何も言わない礼旺をちらりと見ると、彼は神妙な面持ちだった。
何か変な事聞いたか?
「好きかどうかは分からないけど、…大切な人はいたよ」
「…“いた”?」
「今はもう会えないけど…」
「そう…なのか…」
「もし…その人に会えるんなら、僕は “何だって”やれる」
そう言う礼旺の目は普段の穏やかに微笑んでいる垂れ目とは違い、ほの暗い闇を潜めて鋭く細められていた。
そんな彼を初めて見た。
小学校からずっと一緒にいるのに知らない彼の一面を見てヒヤリと背筋が凍る。
――――キキィ―――っ!
「うぉ!」
突然急ブレーキをかけられ、俺達は前の座席にぶつかった。
「いたぁ~っ」
情けない声を出した礼旺は顔面をぶつけて痛みで蹲っていた。
俺も顔をぶつけたけど特に痛みを感じずすぐに起き上がる。
「どうしたの高砂さん」
「すみません!人が急に飛び出してきて……」
「え!?ひいたの?」
ドンと言う音はしなかったと思うけど……。
「ちょっと見てきます」
高砂さんが車のドアロックを解除して扉を開けて出た途端に、周りに大勢の影が現れた。
「な、なんだお前たちはっ!」
数人が高砂さんを襲い、彼は「うっ!」という低いうめき声を上げて車の窓ガラスの視界から消えた。
取り囲まれている!?
そう思った時には後部座席の扉も不審者に開けられて、覆面をしている集団に俺達も襲われて…‥。
首筋にバチンという電気刺激の音がすると同時に意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!