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呉に優しく髪を撫でられ、頬に口付けられて赤穂は勝手に込み上げてくる制御できない感情の波に涙が出そうになる。誤魔化すように力を入れて呉の身体を抱き締めた。
「赤穂、俺たちまだ始めたばかりだから……ゆっくり二人で歩こう?俺たちは俺たちのペースで、ね?」
鼓膜が溶けてしまいそうな、優しくて愛しい声。この声は前からこんなにも甘かったのだろうかと赤穂は堪らずに安堵のようなため息をついた。
「ありがとう……、呉……、俺のこと諦めないでいてくれて、好きでいてくれて、ありがとう」
「ううん、こちらこそ、好きになってくれてありがとう、赤穂」
どちらからともなく自然に唇を触れ合わせ、額を当てて微笑み合った。
二人は極度の緊張から解き放たれたのか、そのまま抱き合っているうち、いつの間にか眠ってしまった--。
握り合った左手からは二人には見えない透明でまばゆいほどに美しい糸が音もなく静かに揺れて光っていた──。
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