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さっきまで蚊の鳴くような声とはまさにこのことだと言わんばかりの弱々しい、今にも消え入りそうな声で話していたくせに、俺の前ではいつもの怖くて強い呉先輩に戻っていた。
「初めて会った時の呉先輩ってすごく優等生な親友を繕ってたからさ。でも今はすごーく自然体」
「千暁……」
「両想いは偉大だね!」
俺は歯を見せてニンマリ大きく笑って見せるが、呉先輩は俺が前まで赤穂先輩を好きなことを知っていたせいか少し戸惑った複雑な表情を浮かべた。
「大丈夫、俺は詔先輩で妥協したよ」と、俺は真顔でピースしながら呉先輩に告げる。
「千暁てめぇ」
あからさまに不機嫌になって批難の声を上げる詔先輩の頭を微笑みながらナデナデして俺は誤魔化してみたが、詔先輩は不満気に俺をまだ睨んでいる。気を取り直したように呉先輩は俺の頭に手を置く。
「ホラ、昼休憩終わるぞ、教室戻れ。今日は16時半体育館な」
「ハーイ、じゃあね。呉先輩、詔先輩」
ヒラヒラと詔先輩は俺に手を振り、俺はわざとらしく教室の扉を潜った後振り返って一礼して見せ、三年生の教室を後にした。
「っとに、千暁って本当に年下?」
呉は千暁が出て行った扉を見たまま腰に手をやり呟いた。
「あー、わかるわぁ……。なんか変に鋭いこと言うよな、あいつ」
そう話す詔の顔は満更でもない様子で「ノロケか?」と呉は笑いながら意地悪く、親友の顔を覗き込んでやった。
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