328人が本棚に入れています
本棚に追加
「千暁」
自販機前で千暁はジャージ姿の呉に声をかけられた。
「呉先輩、え? 俺遅刻してます? 16時半からですよね」
「遅刻してないよ、大丈夫。あの、さ」
呉が言いづらそうに千暁から視線を逸らしている。千暁は何かやらかしたろうかと考えを巡らすが一つだけ思い当たることがあったのでニヤリと笑う。
「赤穂先輩とのことだあ?」
ビンゴだったようだ。呉はビクリと身体を硬直させ千暁を真っ直ぐ見た。その瞳は明らかに動揺している。周りに知り合いがいないかぶんぶんと顔を振って確認し、呉は千暁の肩を抱き寄せコソコソと建物の影に連れ込んだ。
「誰にも言うなよ」
呉は二つも年上なのになんだか小動物を見ている気分になり、可愛い人だなと千暁はしみじみした。
「誰にもって……、誰にも?」
「そう、俺とお前だけの秘密」
「いやん、えっち!」
おふざけが過ぎたのかパコンと頭をぶたれた。先輩、それが人にものを頼む態度ですかと千暁は恨めしそうに睨んだ。
「本気で、本気で誰にも言わないでくれるか?」
「年下の俺に頼るくらいだからよっぽどのことなんでしょう? 言いませんよ。あ、でもなんか奢ってください」
抜け目のない奴めと言わんばかりに呉はジロリと千暁を一瞥した。
最初のコメントを投稿しよう!