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ひと結び。
それは物心ついた時にはもう見えていたーー
歩道の横を一組の学生カップルが通り過ぎていく。「待って」と女性が男性に伸ばす手の小指の先からは糸のようなものが出ていて、捕まえた男性の手の小指からもそれが見え、その糸はお互いへと結び合っていた。
そう、俺が見えるのは『赤い糸』だーー。
ーーと、言っても赤い糸がくっきりと見えているわけではない。それはピアノ線みたいに透明に近く、光のようにも見えるーー。
小さい頃からの経験でわかったことは、強く思う相手が存在する人のみ、それは現れ、自分に見えるということだ。
だけど昔から、自分のだけは一度たりとも見えた試しがないーー。
そのせいで何度恋をしても自分は本気じゃないような気がして、踏み出すことも出来ずに、自分の恋は常に成就することはなかった。
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