物語のはじまり

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時は遡ること、明治。 桜の花が咲き誇る、春。 町は桜まつりで賑わっていた。 その賑わいの中に少女、“坂本糸”はいた。 「わー、綺麗な桜。見て花、綺麗だね」 糸は、妹の“花”と同じ村の男の子、“新太”の手を握って人混みの中を歩いていた。 「糸ねえちゃん、俺あっちいってくる!!」 新太はそう言って、糸の手をするりと抜けていった。 「あ、新太!ちょっと待って!」 糸が新太を追いかけた時、 「わっ」 新太は人にぶつかり尻餅をついた。 「ほら言わんこっちゃない!ダメでしょ?ひとりで、、、」 糸は、ぶつかった相手が衝撃で落とし、しかも行き交う人によって踏まれて汚れてしまった風呂敷を見て言葉を失った。 「す、すみません!すぐにとは行きませんが必ず弁償いたします!」 糸は頭を下げた。 「いえ、大丈夫ですよ。洗えばなんとかなるし、それに、そんなに大事なものでもないから」 男は、優しい声で言った。 「ですが、、、」 「頭をあげてください」 「はい」 糸は頭をあげたが、申しわけなさそうに目を伏せている。 すると次の瞬間、男は口を開いてこう言った。 「君、うちで働かないかい?」 「、、、はい?」 糸は、きょとんとして男を見た。 男は、糸に微笑みかけていた。 これが、この物語の主人公、“糸”と“壮介”の出会いであった。
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