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家を出る前夜、糸は少ない荷物を風呂敷に詰めていた。
「糸ねえちゃん」
花が声をかけた。
「あら花、どうしたの?」
「お屋敷に行ったら、もうずっと帰ってこれないの?」
糸は、花の小さな手を包み込んだ。
「そんなことないよ。お休みをもらったら、すぐ花に会いに来るから」
糸はにこりと笑った。
「うん」
「ほーら、寂しくなっちゃったの?おいで?」
糸は手を広げ、花を抱きしめた。
「糸ねえちゃん大好き。元気で頑張ってね」
「うん。私も花が大好きよ。しっかりお手伝いして、いい子にしてるのよ」
糸は、溢れだしそうになった涙をこらえた。
眠っている花の寝顔をしばらく眺めた後、糸は静かに布団を抜け出し、外へ出た。
ほかの部屋で寝ていた三郎は、誰かが家を出た音で目が覚めた。
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