三郎の恋心

2/4
前へ
/221ページ
次へ
家を出る前夜、糸は少ない荷物を風呂敷に詰めていた。 「糸ねえちゃん」 花が声をかけた。 「あら花、どうしたの?」 「お屋敷に行ったら、もうずっと帰ってこれないの?」 糸は、花の小さな手を包み込んだ。 「そんなことないよ。お休みをもらったら、すぐ花に会いに来るから」 糸はにこりと笑った。 「うん」 「ほーら、寂しくなっちゃったの?おいで?」 糸は手を広げ、花を抱きしめた。 「糸ねえちゃん大好き。元気で頑張ってね」 「うん。私も花が大好きよ。しっかりお手伝いして、いい子にしてるのよ」 糸は、溢れだしそうになった涙をこらえた。 眠っている花の寝顔をしばらく眺めた後、糸は静かに布団を抜け出し、外へ出た。 ほかの部屋で寝ていた三郎は、誰かが家を出た音で目が覚めた。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加