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そうやって、人は人に依存し、助け合うなどと戯言を抜かしながら陥れる。正直者が馬鹿を見る羽目になるんだ。
「結構皆重かったねー」
沈黙しそうになったとき、光が大げさに言った。
「僕は、皆よりちっぽけだったけど……」
「もー耕太? そういうのは関係ないんだよ?」
丸くなりながら言う耕太の頭をつつきながら、光が言う。
「死にたいと思ったから自殺する。一人じゃ嫌だから集団でする。いい思い出を作って死にたいからこうしてる。それでいいの! 理由なんて関係ないんだから!」
話していることは不謹慎だが、事実そうなのだから仕方ない。
大切なのは、自殺の理由じゃない。死にたいか死にたくないかだ。
俺は、光がそう言っているように思えた。
「ねーおじさん」
「ん? なんだい?」
そこで突然、俺の隣のアリスが、俺の膝の上に移動しながら敬一郎さんに話しかける。
「アリスお腹すいた」
お腹をさすりながら、言うアリスに千代さんが微笑む。
「そうね、お腹すいたわね。敬一郎さん、どこかないかしら?」
「んーここら辺だと、近くには居酒屋ばっかりだなー」
運転しながら時折ナビの画面に目を向ける敬一郎さん。
どうやら、本当に何もないらしい。
「行く宛なんてないし、海の見える場所でも行こうかと思ったのがまずかったかな?」
「海!?」
呟いた敬一郎さんの言葉に、隣の祭歌が大きく反応した。
海が好きなのか。
「アリスちゃん、もう少し待てるかしら?」
「……うん、アリス我慢する」
我慢。
アリスの口からその言葉を聞いたとき、全員の顔が引きつった。
そして、皆同じ事を思ったはずだ。『この子はそうやって我慢してきた人生だったのだ』と。
俺たちみたいに大きくなっていけばなんともないことでも、子どもというものは敏感に感じ取る。だから、もしかすると、この子にとっていい思い出になるという事は、我慢せずにいることなのかもしれない。
「あ、近くにファミレスがあるみたい」
そう呟いたのは、耕太だった。
アニメのキャラクターのカバーをつけたスマホを持っていて、どうやら調べてくれていたらしい。
「ようし。じゃあ、耕太君。道案内頼んだよ!」
そう言って、敬一郎さんはアクセルを踏んでスピードを上げた。
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