二、理由

13/13
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
そうやって、人は人に依存し、助け合うなどと戯言を抜かしながら陥れる。正直者が馬鹿を見る羽目になるんだ。 「結構皆重かったねー」 沈黙しそうになったとき、光が大げさに言った。 「僕は、皆よりちっぽけだったけど……」 「もー耕太? そういうのは関係ないんだよ?」 丸くなりながら言う耕太の頭をつつきながら、光が言う。 「死にたいと思ったから自殺する。一人じゃ嫌だから集団でする。いい思い出を作って死にたいからこうしてる。それでいいの! 理由なんて関係ないんだから!」 話していることは不謹慎だが、事実そうなのだから仕方ない。 大切なのは、自殺の理由じゃない。死にたいか死にたくないかだ。 俺は、光がそう言っているように思えた。 「ねーおじさん」 「ん? なんだい?」 そこで突然、俺の隣のアリスが、俺の膝の上に移動しながら敬一郎さんに話しかける。 「アリスお腹すいた」 お腹をさすりながら、言うアリスに千代さんが微笑む。 「そうね、お腹すいたわね。敬一郎さん、どこかないかしら?」 「んーここら辺だと、近くには居酒屋ばっかりだなー」 運転しながら時折ナビの画面に目を向ける敬一郎さん。 どうやら、本当に何もないらしい。 「行く宛なんてないし、海の見える場所でも行こうかと思ったのがまずかったかな?」 「海!?」 呟いた敬一郎さんの言葉に、隣の祭歌が大きく反応した。 海が好きなのか。 「アリスちゃん、もう少し待てるかしら?」 「……うん、アリス我慢する」 我慢。 アリスの口からその言葉を聞いたとき、全員の顔が引きつった。 そして、皆同じ事を思ったはずだ。『この子はそうやって我慢してきた人生だったのだ』と。 俺たちみたいに大きくなっていけばなんともないことでも、子どもというものは敏感に感じ取る。だから、もしかすると、この子にとっていい思い出になるという事は、我慢せずにいることなのかもしれない。 「あ、近くにファミレスがあるみたい」   そう呟いたのは、耕太だった。 アニメのキャラクターのカバーをつけたスマホを持っていて、どうやら調べてくれていたらしい。 「ようし。じゃあ、耕太君。道案内頼んだよ!」   そう言って、敬一郎さんはアクセルを踏んでスピードを上げた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!