六、愛情

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先日、案の定耕太は引きずった様子で、旅館に戻っても落ち込んでいた。 仕方のないことだとしても、彼は気にしなくては気がすまないタイプなのだろう。それこそ、心が優しく真っ直ぐな証拠だと思うが。 「よっし! 今日は何しよっか!」 いつもより明るめに言う光。 時間は午後一時。 風呂も済ませ、朝食も済ませ、あとはやることを決めるだけなのだが、敬一郎さんが深く眠りすぎてこの時間になってしまっていた。 祭歌は海へ、耕太は単純に遊びに行きたいと言い、そこに俺たちは向かった。 残りは俺を合わせて五人なのだが、 「逆に光ちゃんはやりたいことはないのかしら?」 「耕太とデート」 「皆でできないじゃない」 千代さんの問いかけに、即答で、真顔で答えた光。 千代さんは、少し呆れ気味に笑った。 光は、おそらく現時点でやりたいことが見つかっていないだけなのだと思う。 最初に海に行って、何を楽しめるか分からないと言っていた耕太が、次に意見を上げていた。 こういて過ごしているだけで、みんなの中に、何か楽しそうなこと、やりたいことなどが頭の中に浮かんできているのだと思う。 少なくとも、俺は少し考え始めている。 「はい!」 沈黙に陥りそうになったとき、元気に手を上げたのは、俺の隣に座っているアリス。 ウサギの人形を左手で大事そうに抱えながら、真っ直ぐに右手を上げている。 その目は、いつもよりキラキラとしていた。 「アリスちゃん、やりたいことあるの?」 祭歌の問いかけに、大きく首を縦に振った。 皆がアリスに耳を傾ける。 「アリスね! おままごとしたい!」 聞き間違いだろうか。おままごと、だと? 俺たちは、全員目を合わせた。 当の本人であるアリスだけが、うきうきと俺たちの反応を待っており、逆に俺たちは少し困惑していた。
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