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「おかーさんどうしたのかな?」
「んー、なんだろうね?」
不思議そうに扉を眺めるアリスと敬一郎さん。
「飲み物が切れたとかかな?」
耕太が、こちらに来ながら言う。
「いや、飲みもんならまだあったはずだ」
「考えても仕方ない。僕らは僕らで楽しんでおこうじゃないか」
仕切りなおすように敬一郎さんが言う。
そこからは、他愛の話だらけだった。
正直に言うと、ここ数日とあまり変った感じはない。
変ったのは、お互いの呼び方と、アリスがいつも以上に甘えてくることくらいだった。
女性陣が部屋を出て一時間とちょっと。三人はようやく帰って来た。
手には、お盆を持っていて、その上にはおいしそうな料理が乗っかっている。
「厨房借りて、ご飯作ってきたわよ。お昼にしましょ?」
これまでコンビニ弁当やらで栄養が少し偏っていた。
嬉しいサプライズに、俺たちは空いた口がふさがらなかった。
「ご飯だー!」
「ぼ、僕大盛りのやつがいい」
「ふふ。あせらないの。圭祐、厨房にまだ運びきれないのあるから、持ってきて頂戴」
「おう」
「いやぁ、久々の暖かいご飯だねぇ」
「千代さ……お母さんとっても料理上手だったよ」
「そうそう! なんかね! 私なんてお皿出してただけで、包丁は持たないでってお願いされちゃった!」
皆がはしゃぐように話している中、俺は厨房に向かった。
厨房に着くと、そこには女将さんがいた。
茶色い浴衣に白い割烹着を着ていて、艶やかな黒い長い髪と左目の下にある泣き黒子が印象的だった。
おそらく、俺たちがチェックインしたときにいた人だ。
「こんにちは」
俺に気づくと、女将さんはこちらに挨拶をしてきた。
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