六、愛情

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俺も一応返して、お盆の上に乗っている料理理を持つ。 「厨房、貸して頂いてありがとうございます」 俺は、女将さんに礼を言う。 すると、女将さんは優しく微笑んだ。 「いいのですよ。食材もお客様自身が買ってきていたようですし。このような場所であれば、いくらでも」 「ありがとうございます」 俺は、もう一度礼を言って部屋を出た。 料理を運ぶと、皆が座って待っていた。 今日は、俺の隣にいたアリスは、敬一郎さんと千代さんの間に入り、その代わり、いつも俺がいるほうに、光と耕太がいた。 俺は、入り口近くのところを陣取り、料理をお盆から下ろす。 「それじゃあ、頂きます」 敬一郎さんが言うと、全員が釣られるように「いただきます」と言って食べ始める。 暖かいご飯は、電子レンジで温めるやつでやったみたいで、炊飯器で炊いたような味はしない。 だが、おいしかった。 サラダも、卵焼きも、から揚げも、何もかもがおいしく感じれた。 箸を進めながら皆を見ると、楽しそうに食べていた。 一番楽しそうにしていたのは、アリスだった。 そこで、俺は理解した。どうして、アリスが急にままごとをしたいと言い出したのか。 アリスは、育児放棄に近い待遇を受けてきた。 身に着ける衣があった。 雨風しのげる住があった。 空腹をしのげる食があった。 だが、心を満たす愛がなかったのだ。 子どもといえど、空気は読める。人によっては、読みすぎてしまう子もいるだろう。 アリスは、親に要らないと思われていることを察しつつあった。 親は産んだ以上、何もしなさ過ぎると問題になり、面倒ごとになる。 それを防ぐために、最低限、本当に最低限のことをしていた。 だが、その最低限とは、人間が生命活動をするための最低限であり、人が人として生きていくための最低限ではない。
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