六,五、楽しませ方

3/5
前へ
/88ページ
次へ
「あ、おはよう。圭祐さん」 昨日は一日、お兄ちゃんだったため、少し違和感を感じたが、俺は気にしないで返事をする。 「ああ。おはよう。ゆっくり寝れたか?」 「そりゃあもうばっちり! 光ちゃんは元気に―――」 「なぁ、光」 元気に言う光の言葉を遮って、俺は言った。 「そろそろ、そのキャラやめねぇか」 「え?」 光は一瞬固まった。 海に言った日。 パーキングエリアで祭歌と話た時。 俺は、光の楽しみ方について考えた。 それは、そこからもずっと続いてきた。 『楽しむ振りを楽しむ』光。 楽しそうにテンションを上げることによって、コイツは周りを楽しませ、それを見て自分すら楽しいように錯覚する。 そうすることで、過去のことを忘れるように、隠すように。 コイツ自身、パンドラの箱なのだ。 その中の災厄という名の過去を封じ込めるために、楽しむという鍵をかける。 そうすることによって、自分の暗い部分を出そうとせず、隠す。 「どうして?」 俺の真剣な目に、光は俺に近づきながら問い掛ける。 それは、いつもの元気に明るい光ではなく、むしろ逆。暗く落ちているような表情だった。 「私は、これで十分楽しんでいるのに。誰にも迷惑かけてないのに、貴方は何でそんなことを言うの?」 よってくる光に、俺はつい後ずさる。 今までの暗い部分が、すべて出てきているようだ。 空いたままのドアから、そのまま廊下に出て、壁に背をつける。 逃げ場はない。進む道もない。 どうやら、最大の地雷を踏んでしまったらしい。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加