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光は、俺の目の前に立つ。
誰かを殺しそうだとか、幽霊みたいで怖いとか、そんなものじゃない。
『ただただ恐ろしい』
光を失ったような暗い瞳。
射殺すような冷たい視線。
すべてを失ったような暗い表情。
無駄な力を抜け、垂れ下がる腕。
確かに、それでもゆっくりと近づいてくる足。
そのすべてが、なぜか恐ろしく感じてしまう。
「圭祐さん、楽しいって何?」
光からの問いかけ。俺はその問いかけに答えられなかった。
楽しいこと、楽しみ方などは人それぞれだ。
だが、コイツは今そんな返事を待っていない。
コイツは、俺にとっての楽しいことを聞いてきている。
「私は、私の楽しいが良く分からない。楽しいって何?」
「...しらねぇ」
俺は、精一杯気張って返事をした。
「確かに、楽しみ方はそれぞれだ。お前がアレで楽しんでんなら、別にいいと思う」
俺の返事を聞いて、光は眉をピクリと動かした。
その目は、「じゃあ、何であんなこと言ったんだ」とでも言うようだった。
「堅苦しいのは無しっつー事で、敬語もやめて名前を呼び合った。だが、堅苦しいのも無しなら、水臭いのも無しだと思わねぇか?」
理にかなっていない、即席の自論。
それでも、俺は続けた。
「俺は、お前にも心から楽しんで欲しい。だから、素を出せと言ったんだ。相手を楽しませることだけを考えて、楽しんでいると錯覚すんのはやめろ」
言い切った。俺の思いを。
しかし、光は相変わらずあの視線で俺を見る。
瞬きもせずに真っ直ぐ俺を見る。
だが、数秒してうつむいてしまった。
そして、
「別に、楽しませられてない」
ポツリ、呟いた。
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