七、どうしようもなく

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「もういらねぇや」 そう言って、首を絞め始めた。 「ひっ……ぁぐ……かはっ……ぅあ……」 光の嗚咽が聞こえてきた。 まずい。光が殺される。 そう思ったとき、信じられないことが起きた。 「……離せ」 隣で伸びていた耕太が、立ち上がったのだ。 「光を、離せぇぇぇ!」 大きな身体に鞭を打って、男に駆け出す。 そのまま、男にもう一度タックルをかました。 だが、今回はそれで終わらない。 そのまま、耕太は、男の上に乗っかった。 「ぐぁ! お、おめぇ! テメェ、このデブ! どきやがれ!」 「どいてやるもんか! 僕らは殺されるためにここに来たんじゃないんだ!」 そう言って、近場の石を握る。 「僕たちは……自殺をするために来たんだ! 皆で死ぬんだ! お前に殺されるためじゃない!」 そう言って、石を振り下ろした。 男の頭に、何度も何度も。 男の声が聞こえなくなるまで。 耕太を掴んでいた男の腕が垂れるまで。 そこに……赤い水溜りができるまで…… 「はぁ……はぁ……」 耕太は、血で赤くなりながら、こちらに戻ってきた。 「こう……た……?」 光は、力の抜けた声を出した。 「大丈夫だよ。どうせ、僕たちはこれから死ぬんだ」 そう言って、光を抱き上げた。 「圭祐さん、立てる?」 「あぁ。なんとかな」 俺は壁を使って立ち上がり、周りを見渡した。 警察を呼ばれていたりする気配はない。 早く、ここから出なければ。 そう思い、身を隠しながら、旅館に戻った。
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